要注意!AI開発で著作権を侵害する恐れがあるシチュエーション5選。
日本でもAI開発を行う企業が増えています。実務で携わる機会がある方も、少しづつ増えているのではないでしょうか。そんな時にふと、データ周りで「著作権」について耳にしたことはありませんか?
「AI開発を行う上で、知らないうちに著作権を侵害している……」
「AIで作り出した物が著作物に類似してしまっている……」
「日本はAI開発に厳しくないようだけれど、海外に比べてどの程度規制があるだろう……」
「開発したAIが著作権侵害で訴えられることになってしまったら……」
こういったお悩みを抱えている開発者担当者は少なくありません。AI分野の発達はスピード感が高く、日に日に情報が更新されています。現時点(2023年8月時点)の日本では「AI開発の学習段階で原則、著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用行為は、著作権者の許諾なく利用可能である。」と定められています。
とはいえ、この一文を見ただけでは「???」と判断は難しいですよね。
そこで、この記事では現代におけるAI開発と著作権との関係をシチュエーションごとに紹介し、実際のニュースや文化庁が定めている現状のルールを学び安心してAI開発業務に携われるような内容となっていますので、是非業務などで参考にしてみてください。
1.こんなシチュエーションはNG要注意?!タイプ別事例を紹介!
1-1.特定のキャラクターだと判断できる画像が生成されてしまった場合
画像生成AIは「プロンプト」と呼ばれる、AIに何を生成するべきか画像の方向性を定めるテキスト・キーワードの指示を出すことにより、コンテンツを生成することができます。
代表的な画像生成AIは「Midjourney」「Stable Diffusion」などが挙げられます。ネットニュースなどでも度々話題に上がり、見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。
「dog,sea」のように作り出したい画像のキーワードを指示することにより、簡単に画像を生成することができるツールです。
簡単なキーワードのみで画像を生成することができ、プロンプト通りの「犬と海」を表した画像が作られています。このように気軽にAIに触れることができる機会が増えているように感じ、一般のユーザーでも資料に差し込む画像やコンテンツ作成の手間、労力が一段と楽になるのではないでしょうか。
ここで注意すべき点は、プロンプトで著作物にあたる特定のキャラクター等で指示を出し、そのキャラクターと類似したものが生成されてしまった場合です。
「Stable Diffusion」で特定のキャラクター名を使用して画像の生成を行ってみました。
左側の一方は、一目で「あのキャラクターだ…」と分かってしまうほど特徴をつかみ、色・形・デザイン含め誰でも認識することができるかと思います。
もう一方は、色とやや形も捉えているものの顔や特徴など連想することはできるものの、認識することは少し難しいように感じます。そのため、前者の場合は教師データ(AIに学習させるための元データを指します)に著作物を利用されている可能性が高いため著作権を保有している会社から見た場合、著作権侵害をしていると捉えられる可能性があります。
1-2.AIイラストの生成・収集をする場合
画像生成AIの中には既存の画像をプロンプトに新たな画像を生成することができるツールも多数あります。「AIイラストを生成・収集したい」と考えた際にも注意が必要となり、場合によっては著作権侵害に該当する場合があります。昨今、日本国内でも様々な議論を呼んでいます。
2023年5月、「DLsite」や「pixivFANBOX」など、クリエイターを支援するサイトがAI生成イラストの取り扱いを一時禁止すると発表をしています。
・特定のクリエイターが不利益を被ること
・ プログラムなどで、クリエイターの作品が不当に収集されること
・AI生成作品を見たくないユーザーにも、AI生成作品が多く表示されること
などが問題視され、クリエイターや利用者に配慮をしたサービス運営を行うと宣言しています。加速度的に進化している生成AIへの対応に、運営側も苦慮している様子がうかがえます。
今まで、絵を描くのが苦手だったりイラストに挑戦してみたいと思っていた人々からすると夢のようなツールで、”楽しむ”観点からすると素晴らしいテクノロジーの進化だと言えますが、クリエイター側からすると「自身の作品を学習データに勝手に使用される不安」や「時間をかけて制作した作品をAIに取って変わられてしまう恐怖」など、作品を守る観点で議論を呼んでいます。
そのため、一般に公開されているイラストなどを無断で自動収集(スクレイピング)を構築しその画像を学習データに使用してAI開発などを行うことはNGとされる場合があります。
1-3.AIで生成された文章が特定の書物と一致する場合
話題の「ChatGPT」のような指示(プロンプト)を出すだけで簡単に文章を作成することができ、人間と会話をしているような感覚になるのを体験した方も多くいるのではないでしょうか。
細かな指示を出すことで業務の大幅な効率化を図ることもできる可能性がある大規模言語モデル(LLM)AIにも注意すべき点があります。
LLMを作成する際にはAI言語を教えるため、大量のテキストデータが必要となります。実際に「ChatGPT」の裏にはケニア人による大量のデータ作成作業があったとリークされていました。そこで問題になるのはAIに教えるための元となる、「文章データをどこから作成や入手するのか」となります。
たとえば「一期一会」の意味を実際に「ChatGPT」で生成を行ってみました。辞書のように調べ物をした際、意味合いとしては正しいことが分かるので何かしらの書物や文章の中から抽出されたものだと考えることができます。
そのAIの返答が実際に書店に販売されている辞書などと完全に一致している場合は、学習データに特定の書物が使用されている可能性があるため、販売元の著作権を侵害しているといえます。そのため、学習データに書籍を丸々コピーするのような著作物と完全に一致したものを使用することは著作権侵害にあたる場合があります。
1-4.音声AIのボイスが声優の声と類似している場合
最近では、音声で応対してくれるAIも発達していて、スマートフォンのアシスト機能や自宅の照明・家電などの皆さんの身の回りでも多く触れる機会があり使用されている方も多くいるかと思います。特に最新のものでは、ロボットのような声質ではなく実際に人間の声・発音をすることができるAIも多数開発されています。
しかしながら、そうしたAIが生まれてくることによって声を仕事にする声優やアナウンサーといった職種に携わる人々が「仕事奪われてしまうのではないか」と不安を抱えているのも事実です。実際に、アメリカの映画俳優組合がストライキを実施したり日本の有名声優がAIの進化を脅威ととらえる考えを表明したことなど、音声の分野でもAIが進化していることがうかがえます。
今では「YouTube」や「Spotify」などの音楽ストリーミングサービスやSNSが一般に普及したことにより、著名人の会話や歌声などを簡単に入手することができるようになりました。そのため、学習データとしても容易に取り入れられると思われるのですが日本俳優連合が“生成AI”に提言をし、「新たな法律の制定を強く望む」声の肖像権確立などを求める動きが出ています。現状の日本では”声”の肖像権はありません。
しかし、音声には著作権があります。たとえば、
・イベントで声優の声を録音してSNSにアップロードする
・朗読作品を公の場で再生をする
・公開されている音声作品をコピーし配布をする
など音声の著作権者に許可を得ずに、このような行為を行うことはNGとなります。生成AIと声優を巡っては、声優の声を再現できる非公式のAIボイスチェンジャーなどが販売されているそうです。これらも、元となった人の権利を侵害する可能性があるのでNGとなります。
1-5.動画生成AIが既存の作品とストーリーが類似している場合
動画の分野でもAIと著作権の関係に問題があるようです。映画の本場、ハリウッドでもAI技術の発達により役者や脚本、監督までもがAIに「役」を取って代わられると危惧され「映画制作がAIで可能になる日が近い」とストライキを起こしたりなど世界的にも話題になっていることが伺えます。
代表的な「Gen-2」はテキストから映像を生成することができるAIです。2023年2月に発表された前身の「Gen-1」は、元の動画をプロンプトにじ、別の動画へと変換することができる(video to video)サービスとなっていましたが、同年6月に一般リリースされた「Gen-2」からは、描きたい状況ををテキストのプロンプト(入力命令)として入力をするだけで動画を生成する「text to video」ができるようになりました。これにより、ユーザーはテキストのプロンプトを入力するだけで、短時間でリアルな映像を生成することが可能になっています。
実際に、「Gen-2」を使用して動画を作成してみました。
一つ目の例では前述した、キャラクター画像生成で一目で「あのキャラクターだ・・・」と理解することができた有名アニメーションの「タイトル,キャラクター名」の簡単なテキストで作成してみました。
約4秒程度の動画が生成され、色味や形などは特徴を掴んでいると感じられるものの、完全に一致しているとは感じられないため実際に学習データとして使われているかどうかはグレーな部分なのではないでしょうか。
「Gen-2」は顔のアップや、自然物を得意とし、アニメーションは苦手分野となるようです。そのため、リアルさが出て著作物と似たものではないように感じました。
二つ目の例では世界的に有名な「蜘蛛のヒーロー」の名前をプロンプトとして生成してみました。こちらはどうでしょうか。色味や姿・形がかなり認識できパッと見ただけでもあのヒーローを思い浮かべることができると筆者は感じました。そのため、この作品自体が開発段階の教師データとして使用されている可能性は高いのではないでしょうか。このように既存の映像作品が学習されていると思われるものに関しては著作権侵害にあたってしまうと考えられます。
まとめ
ここまで様々な例を用いて、AI開発と著作権の問題について紹介を行いました。各方面でメリット・デメリットが出ており、AIの進化はまだまだ続き、止まることはないと感じています。世界的にもAI開発が盛り上がっている一方、多くの国でルールや法が定まり切ってません。争点としては「著作物と一致していると感じるAIでの生成物は著作権侵害になる可能性が高い」といった、曖昧で個々人の主観的であるところが現状なのではないでしょうか。そのため教師データの選定はとても重要なポイントとなるため慎重に行う必要があります。
それでは次章では日本国内と世界で実際にどのような場面でAI開発と著作権の問題が話題になっているのかニュースを紹介していきます。
2.AI開発と著作権をめぐる話題を紹介
現在(2023年12月)日本では生成AIの著作権について度々話題にあがることはありますがAI開発と著作権を巡る訴訟の判例は今のところありません。しかし、海外ではすでに著作権者による集団訴訟やストライキなどが起こり度々ニュースに取り上げられています。それでは、実際のニュースを確認し日本と海外との「AI開発と著作権」の関係を知っておきましょう。
2-1.日本国内ニュース
・AIが作ったイラスト、「投稿禁止」の動きも 著作権以外のリスクは
・AIが勝手に作品学習、「なりすまし被害」も 著作権問題への対応は
・AIによる画像生成は「著作権侵害」にあたるのか
・AIが生み出した女性モデルのグラビア写真集、集英社が販売中止…著作権を問題視する声
・生成AIの無断学習に広がる困惑 創作者への還元に知恵を
2-2.海外ニュース
・サムスン、ChatGPTの社内使用禁止 機密コードの流出受け
・OpenAIに集団訴訟 米利用者「データを違法収集」
・アーティストの作品でAI訓練 「無断で複製された」米国で集団提訴
・わいせつ動画の顔、AIで女性芸能人に加工…中国で2000人以上に提供した男を提訴
・AIは著作権を持てるか……中国でバーチャルヒューマンの「権利」を巡る初の判決
2-3.ニュースまとめ
海外ではEU・アメリカでも議論が進んでいる段階のようです。アメリカは、著作物に対して「フェアユース(公正な使用)」と呼ばれる規定があります。訴訟の度に著作権の問題があるかないかを議論するといった内容になります。すでにアメリカのアーティストがAI開発企業を訴えており、訴訟の行方を含めて議論が続いています。
EUでは2019年に、学術を目的にする場合は著作物の使用が可能となっています。しかし、それ以外の分野では著作権者が希望をすれば自身の画像や動画等をAIの教師データにさせることを拒む「オプトアウト」という制度を設けるようになっているそうです。
それでは、日本での現状対策についてがどのように進んでいるのかを次章で見ていきましょう。
3.現状の日本におけるAI開発ステップごとの著作権問題について
現状の日本のAI開発と著作権については文化庁が2023年6月に発表を行った以下の通りとなっています。
【AI開発・学習段階では著作権法30条の4が適用され、AI開発のような情報解析等では、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為は、原則として著作権者の許諾なく利用可能である。】
https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_team/3kai/shiryo.pdf
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf
AIと著作権の関係については、「AI開発・学習段階」と「生成・利用段階」では、著作権法の適用条文が異なり、分けて考えることが必要となっているようです。
3-1.AI開発・学習段階
AI開発・学習段階 (著作権法第30条の4)では膨大な学習データが必要となります。そのため、学習データを作成する際であれば、著作物を使っても問題がないとされています(2023年8月現状)著作物を学習データとして収集し、複製を行うことが可能で原則、著作権者の許可も必要とされていません。しかし、教師データ作成・AI開発であれば何でも使用してよいわけではなく、第一章のNG例を参考にする必要があります。
3-2.生成・利用段階
AIで生成後、利用する段階では個々人で使用することには問題ありません。しかし、SNSでの公開・違法アップロードや販売し営利目的とする場合は通常通りの著作権侵害となるため要注意となります。そのため、AIが生成したものも著作権侵害にあたるかどうかは実際の人間が創作した際と同じように著作権侵害にあたる可能性があるといった見方になってくるようです。
4.まとめ
「なぜそこまでAI開発を優遇するのか」
現状日本は世界的に見てもAI開発側においては先進国で最も規制が緩く優遇されているといえます。AI開発では、ほぼ無条件に著作物を「学習データ」にできる状態となり、イラストレーターや音楽家、クリエイター側は著作権が侵害されるとの懸念を強めており、専門家からは、新たなルール作りが必要だと指摘されているようです。
そのため日本のAI開発においては今後、法改正がある可能性もあると考えられています。急速に成長するAI業界に日に日に変更が多いため最新情報を学び続けることが重要となっています。
AI開発に携わっている中でお困りの際は一度、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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